今日は「ワールズ・エンド」(著:斉木久美子)をご紹介します!

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この本、短編集になっております。
中身は3つの短編です。
このうち、表題作「ワールズ・エンズ」が見事な百合短編!

女子高生二人の恋愛とも友情ともくくれない、特別な感情をよく表現している作品です。

「えー、それ一つだけ?」と思うことなかれ。
女子高生の一瞬の輝きを見られるならば、短編集でもなんの問題はございません
表題作以外は、百合表現はないですがお話として秀作ですので、ぜひお読みください。

以下、百合感想。
短編なので、いつもより短めです。

「ワールズ・エンド」 百合的感想



1、二人の関係

主人公:沙織は一般的な家庭の、一般的な女の子です。
彼氏もいない。容姿としても普通。目立たない地味な女の子です。
高校生活を楽しんでいますが、ちょっとしたことでハブられはじめます。

その時に助けてくれたのが、絵真です。
絵真は沙織とは正反対の女の子です。

「彼女にはほかの人にはない違う空気が流れているのだ」と沙織は言っています。

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助けられたことを切っ掛けに仲良くなる沙織と絵真。
 
沙織は自分にないものを持つ絵真に憧れます。
絵真は自分とは違う綺麗な世界を持つ沙織に惹かれます。

一緒に色んなところに遊びに行くようになります。
絵真は沙織が行かないような遊び場所もたくさん知っていて、沙織を連れていきます。

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年齢を詐称してパチンコ屋に行く二人。
こういうのって、パチンコがしたいわけじゃなくて、友達と一緒になにかしてるのが楽しいんですよね。

今までの人生で最高の夏を過ごす二人。

その二人の関係は、沙織がクラブで出会った男の子と仲良くなるうちに崩れてしまいます。
ここが上手い。

女の子の友情ってちょっとしたことで崩れていくんです。
それは嫉妬とかそういうマイナスの感情だけじゃありません。

その子には自分だけでいてほしいっていう独占欲だけで距離感を壊してしまいます。

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絵真のこのセリフは、友情とも恋情ともとれない特別さを表していてスッと入ってきます。

初めて人から強い感情を向けられた沙織は、絵真を残して逃げてしまいます。
この二人の関係はここで一端終わりを告げます。

絵真は学校をやめてしまい、沙織は味気ない日々を過ごすことになります。
いなくなってから、自分のしたことに後悔する沙織。 

普通だったら、ここで終わりです。
実際、そういう終わり方をする話を何本も見てきました。

しかし、この話は違います。

たった一作品だけなのに、この単行本を紹介したくなった理由。
それは最後の締め方です。


2、二人のつづき

場面は5年後に飛びます。

沙織は一週間後に結婚する予定です。
22歳で結婚か、はやいな。

五年たった今でも沙織の胸にあるのは、あの夏の日々。
絵真と過ごした日々だけが綺麗に残っています。

そんなとき、沙織は絵真が本を出したことを知ります。

内容は「二人の夏の日々を書いた本」!

絵真も沙織と過ごした夏の記憶を忘れることができなかったんでしょうね。
沙織は絵真を探します。
しかし、いろんなところで門前払い。

そんな中、作品の映画化の打ち合わせをしている絵真が映画の内容に激怒します。

「沙織を汚さないでよ!」

五年たっても、そのテンションで怒れる絵真さんすごい
スタッフに対して思いの丈をぶつけようとします。
その時

「絵真」

この一言だけで、あの夏へと絵真さんの世界はタイムスリップ
奇跡的に駆け付けた沙織が、絵真の手を取って抜け出します。
沙織の近況を訪ねる絵真に

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「来週結婚だったけど何かもういいやって感じ」

高校時代からは考えられない発言です。
わかることは、結婚を振り切らせるくらいの何かが沙織の中にはあったということです。

絵真と沙織がこの後どうやって過ごすかは描かれていません。

もしかしたら、そのまま二人でどっかに行ったのかもしれませんし。
結婚式をキャンセルするのも大変なので、沙織はそのまま結婚したのかもしれません。

大事なのは目立つのも自己主張も苦手だった沙織が

「結婚も何かもういいや」って思えるほど、絵真に会いたかった

その事実だけで十分な百合と言えるのではないでしょうか。


〇まとめ

百合の精神は、奥深い。
2008年の漫画ですので、手に入れるのが大変かもしれませんが一読の価値はあります。

社会人百合が流行っている昨今ですが、たまには女子高生百合の輝きを浴びるのもいいものですよ?


*ファス*