どうして『スイレン・グラフティ』なんだろう。
最初の印象としては、それに尽きる。
たまにしか行くことができない、都会の本屋。
そこには「百合部」なる、私の夢のような場所があるのだ。
今日紹介する『スイレングラフティ』も、そこで見つけた。
文庫本を何で探すか、なんて個人差が出まくるところだろう。
ジャケ買い、タイトル買い、作者買い……ぱっと思いつくだけでこれだけある。
それじゃ、私はこの本を、なぜ買ったのか。
実は、どれにも当てはまらない。
言うなれば、「百合センサー買い」だ。
昔から活字中毒なので、本屋や図書室をブラブラすることに人生の大半を注いできた。
そうやって歩いていると、たまーに呼ばれる本がある。
昔なら、そのまま立ち読みして、ばーっと読んでしまったりしたのだが、このご時世、そんなこともしにくくなった。
なにより、百合部さんに置いてあるのだ。立ち読みしても買わねばなるまい。いや、立ち読みせずに買うのが一番いい客なのだろうが。
とにかく買った。そして、当てた。
さすが、電撃文庫さん。
一時期の勢いは見られなくなったが、まだまだ青春を感じさせるラノベを出させたら最高の会社じゃないだろうか。
スイレンの意味も、少女二人の青春も、ぎゅっと一冊に詰め込まれていた。
久しぶりに、清々しい気持ちになれる、百合ラノベに出会えたので紹介したい。
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見どころ
見どころ
1、「青春」という言葉が似合うふたり
青春とラノベ。
このふたつは=で結んでいいとさえ思ってる。
ラノベが描くのは青春であり、青春はラノベである。
ラノベの世界に、憧れの学校生活やらを重ねた人は多いハズだ。
この『スイレン・グラフティ』では、少女ふたりの青春が描かれている。
ひとりは、池野彗花(いけの すいか)。
もうひとりは、庭上蓮(にわかみ れん)。
青春ものにありがちな、正反対のふたりが主人公だ。
彗花は忙しく働く母親の代わりに、家事をして、双子の兄妹たちの面倒をみている。
令和の時代に、昭和もびっくりの生活を送っているのが彗花という女の子なのだ。
今どき、兄妹の面倒をみるために、バイトも部活もせず家に帰り、家事をするという真面目な生活を送れることに驚愕。
ぶっちゃけ、親近感はない。
親近感はないのに、頑張ってるなと素直に感じられるのは、作者の腕だろう。
では、彗花と正反対の蓮はというと。
クラスでも、不良だ、ヤンキーだと恐れられている人間なわけで。
そのうえ、物語がはじまると、傷害事件なんて言葉まで出てくるヤバいやつ。
彗花との接点は、席が隣というだけ……だけど、彗花は蓮のことが気になっている。
ここらへん、百合好きにすごく美味しい。
正反対のふたり、真面目とヤンキー、席がとなり。
もう、要素だけ抽出しても、美味しい部分しかない。
「わかる、わかる」と、うなずいた人は、きっと、この本を買ったほうが良い。
だって、この大筋がわかって、それが美味しいと思えたら、大体、美味しい。
本ってそういうものでしょ?
ちなみに、それで納得できない人のために、続きでさらに詳しく百合分を書いていくことにする。
『スイレン・グラフティ』はいい。
百合のにほい(ここがポイント)が立ち上がる小説なのだ。
2、あこがれの友情物語
女の子の友情は複雑怪奇だ。
きっと、男性諸君には理解できない部分が、多々あると思う。
安心して欲しい。
女性の大部分も理解できていない。感覚で生きているだけだ。
だが、女子があこがれるほどの友情ってのは、中々ありえない。
女子の友情は脆い。
ちょっとしたことで壊れる。
男をめぐった恋愛なんて入った日には、戦争も近い。
それなのに、不思議と強い絆で結ばれてしまったりもする。
『スイレン・グラフティ』のふたりは、まさしくそのパターンだろう。(ちなみに、男をめぐっての戦争はないので安心して欲しい。蓮をめぐっての戦争なら、少しある)
女子の友情は、立場など関係しない。
正反対でも成立してしまう。そして、一度成立したら、周りの意見はあまり気にならない。
彗花は、ひょんなことから、蓮の秘密をしってしまう。
そのうえ、兄妹たちが引き起こした不始末を償うため、蓮の手伝いをすることになる。
蓮はヤンキーな見た目とは裏腹に、マンガに情熱を捧げている女の子。
しかも、並大抵じゃない。すべてを捧げていると言っていい。
彗花はそれを間近で感じて、影響される。
彼女自身に、それほどまで情熱を捧げられるものがなかったからだ。
不真面目だと思っていた隣人の、思いもよらぬ姿に、彗花はマンガ作成を手伝うことにする。
蓮の目標は、月末にせまった賞に応募すること。
審査員に蓮が目指す作家がいるからだ。
いやー、スゴイ。
ひとつのことに、そこまで真っ直ぐに打ち込める蓮もスゴければ。
読者にそこまでの感情を抱かせる、マンガ家もスゴイ。
さらにさらに、人をサポートすることに全力をそそげる彗花もスゴイ。
スゴい人だらけ。だからこそ、憧れる。
青春ってこんなんだった。
そういう想いを噛み締めたい人には、ぜひおすすめしたい。
はるか遠くにいってしまった、純粋な憧れという感情を見つめることができる。
ほんと、電撃文庫さまさまだ。
3、読後感がさわやか
今までのところをまとめよう。
『スイレン・グラフティ』は、正反対の女の子たちが、ひとつの目標に向かって努力する青春物語である。
では、青春ものにかかせないものは何だろう。
まず、目標。これがないと始まらない。
次に、課題。これを超えることが面白さにつながる。
蓮の目標は、自分の作品を目標とする作家に読んでもらうこと。そのために会社の賞に応募することだ。
じゃあ、課題は?となって、蓮の抱える問題が明らかになる。
蓮がヤンキーや不良扱いされるのには理由がある。
それは、夜も家に帰らず、ファミレスなどにいることだ。
ここが『スイレン・グラフティ』における問題の中心になる。
なぜ、家に帰らないか。帰りたくないからだ。
帰りたくない理由は……予想がつくだろう。
蓮は父親とふたり暮らしなのだが、これがまた、絵に描いたようなダメ親父なのだ。
この父親とのイザコザにとても胸が苦しくなる。
今どき珍しい話ではない。それでも、真っ直ぐに夢を追い求める少女を、馬鹿にするダメ親というのは、胸くそ悪い。
ひっじょーに気分が悪くなる。
だが、それを乗り越えてこそ、青春であり、この小説が爽やかに終われる由縁でもある。
大人しい部分が目立った彗花が、蓮のためにやってくれる。
まじ、カッコいい。これでこそ、アオハルなラノベにでてくるキャラクターだ。
ムナクソからの、カタルシス。
この爽快感こそ、『スイレン・グラフティ』でいちばん面白い部分かもしれない。
ま、とにかく、途中、いろいろありながらも、彗花と蓮というふたりの少女がさわやかに友情を紡いでくれる。
これ以上ないほど、さわやか。
応募の結果もでるけれど、それもあまり気にならないさわやかさなのだ。
……というか、この記事をつくるために、検索してて、続巻を見つけたから、読みたいと思う。
まとめ
まとめ
個人的に、すごく好きな内容だったので、気になる人は、ぜひ読んで欲しい。
こういっちゃなんだが、ベタな内容だ。
青春、友情、そういったものをギュッと詰め込んでくれている。
でも、それがいいじゃないか。
青春も、友情も、キラキラしている。
キラキラしているからこそ、誰もが一度は憧れた。
それが、自分の手から離れたとしても、たまに見つめ直すくらい自由だろう。
それにしても、この時代に、この内容で、こういう風に、青春を書き上げた作者さん、スゴイわー。
重ねて、私の期待を裏切らない一冊を送り出してくれた電撃文庫に感謝!
「百合小説、もっと出してくれると嬉しいなぁ」と呟いて、終わりにしたい。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます!
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